エグゼクティブ採用の背景 Vol.2「M&Aの増加」 M&Aを活用した事業承継において求められる「CxO」人材

一握りのビジネスパーソンしかなれないと考えられがちな「エグゼクティブ」。しかし、いつの時代も、その求人数が大きく減ることはありません。なぜエグゼクティブ採用が活発化しているのか――その背景にあるさまざまなトレンドをシリーズでお伝えします。

第2回のテーマは「M&Aの増加」。M&Aにより継承された企業の経営を担うCxOクラスの人材が求められています。採用対象となる人物像についてお伝えします。

目 次

近年増えているM&Aの背景


近年、M&Aの件数が増加しています。よく見られるM&Aの背景・目的には、大きく分けて次のようなパターンがあります。

【1】同業種の企業が経営統合し、効率化やシェア拡大を図る

【2】「選択と集中」の戦略に基づき、必要な事業を買収し、不要な事業を売却する

【3】大手企業が新規事業に乗り出すにあたり、優れたプロダクトやサービスの開発に成功したスタートアップやベンチャー企業を買収する

【4】オーナー・経営陣が高齢化した企業において、後継者がいない場合、プライベートエクイティ(PE)ファンドなどに事業を売却する

このうち、特に【4】の「事業承継」パターンでは、PEファンドが外部人材を登用し、買収先企業の経営ポジションに据えるケースが多数あります。

日本では、毎年6万社ほどが「黒字廃業」していると言われます。経営者の高齢化がさらに進む中、M&Aによる事業承継は今後も増えていくでしょう。それにともない、経営を継承するエグゼクティブ人材のニーズも続くと見込まれます。

M&Aを背景としたエグゼクティブ人材の採用動向


私たちJAC Recruitmentには、M&Aを手がけるPEファンドなどから、CxOや部門長クラスの求人のご依頼が寄せられます。多く見られるのは、次のような採用です。

「CEO(最高経営責任者)」を採用

事業売却する企業のCEOが創業オーナーである場合、売却と同時にご自身も経営から退くにあたり、後継のCEOが採用されます。この場合、やはり「CEO経験者」が採用されるケースが多数。

「取締役経験者がCEOにステップアップしてもいいのでは」と思われるかもしれませんが、求人企業によると「CEOとそれ以外の取締役には歴然とした差がある」といいます。

CEOとして全責任を負って経営にあたった経験を持つ方に、強い期待が寄せられるのです。出身業界も、まったく同じ業界と言わないまでも、ある程度親和性がある分野でのCEO経験が求められます。

また、就任する企業よりも規模が大きく、ステージが進んでいる企業、あるいは同等の規模・ステージの企業の経営を担ってきた方が採用対象となります。

「CFO(最高財務責任者)」を採用

PEファンドがM&Aを実施する場合、多くのケースでCFOポジションの採用ニーズが発生します。

ファンドには金融機関やコンサルティングファーム出身者が多く、ファイナンスの側面から自分たちと「共通言語」でビジネスを語れる、もしくはビジネスをリードしてくれるCFO人材を求めているのです。

求める要件は、就任する企業の規模やステージによって異なりますが、多くの場合、「これから目指すステージ」の企業の経験が重視されます。

スタートアップやまだ若いベンチャー企業で、これからIPOを目指す場合、IPOを達成した経験を持つ方が求められます。資金調達を重要視している企業であれば、外資系投資銀行出身の方が採用ターゲットになるケースもあります。

一方、就任先がマザーズ・JASDAQ上場企業であり、これから一部上場を目指す場合(2022年4月以降は、グロース市場・スタンダード市場からプライム市場を目指す場合)、一部上場(プライム市場)企業の出身者を求めます。この場合、対象者は多くないため、一旦、経理財務部長クラスの方が採用に至るケースもあります。

マーケティング・営業・生産など、課題がある部門の責任者を採用

新たな株主から見て課題と感じられる部門やポジションにおいて、補強や変革を担う責任者を採用するケースもあります。

マーケティングが課題であれば「CMO(最高マーケティング責任者)」、営業を強化する必要があれば営業本部長、メーカーであれば「工場長」「サプライチェーンマネジメント責任者」など、課題に応じてさまざまなポジションの求人が出てきます。

M&Aを背景とした採用において求められる要素


M&A後の企業で責任者のポジションに就任するに際しては次のような要素が求められます。

複数企業で「修羅場」をくぐった経験

「1社のみしか経験がない人よりも、最低2~3社は経験している人が望ましい」

――求人を行うファンド側からは、そのような声をよくお聞きします。

1社勤務で、その会社のルールやカルチャーしか知らない方、特に大手企業の整った環境で働いてきた方では、M&A直後の混沌とした状況に対応し、変革を推進していくのは難しい、と考えられているのです。

つまり、複数企業を経験し、「修羅場」もくぐり抜けてきたような人材が求められます。

「転職」に限らず、「子会社に出向し、経営の立て直しや事業の立ち上げを手がけた」といった経験が歓迎されます。

たとえば、ある方はもともと総合商社に勤務し、ジョイントベンチャーで立ち上げた子会社で社長を務めていらっしゃいました。その後、あるオーナー企業でM&Aが実施された際、社長はじめ経営陣一同が退いた後に社長に就任されました。

その企業は古いイメージがある商品を扱っており、顧客は高齢者層中心で、先細りの状態にありました。そこで若い層の顧客を開拓するため、ブランドイメージを刷新。「第二創業」を軌道に乗せて活躍されています。

自身のやり方を押し付けず、「融和」する姿勢

M&A後の企業は、多くの場合「変革」が求められる環境にあり、責任者として採用された方は変革をリードしていく責任を担います。しかし、就任直後から自身の成功体験やノウハウを押し付けると、既存社員の離反を招き、「抵抗勢力」となってしまうケースが多く見られます。

そこで、変革を推進する立場でありながらも、まずはこれまでのやり方を受け入れ、既存社員との関係を築くことが大切です。成果を焦らず、周囲の協力を得ながら、徐々に新しいやり方を導入して融和させていく姿勢が求められます。

M&A後の企業で働くやりがい・価値とは


M&A後の企業の経営を引き受けることに価値を感じられるかどうかは、その方の志向性によります。

「順風満帆で安定した会社を運営するよりも、難しい課題を抱えている会社の変革をリードしていく方が面白い」――そんなふうに厳しい局面や逆風の環境を楽しめる方であれば、やりがいを感じられるでしょう。「傾いた経営の立て直し」というより「第2創業」「第3創業」と捉えれば、新たなチャレンジの価値をより強く感じられるのではないでしょうか。

人類の歴史の中では、「中興の祖(ちゅうこうのそ)」と呼ばれる人物がいます。長期にわたる王朝や政権の半ば、かつ危機的状況の中で政権を担って回復させ、安定・維持に貢献して高い評価を受ける名君を指す言葉です。

のちの時代、「あのとき、あの人がいたから今のこの会社がある」と語り継がれるような歴史を刻む――そんな可能性があるポジションだと言えるでしょう。

実際、M&A後の企業の経営ポジションに転職していかれる方々からは、キャリアの集大成として「これまでの経験と蓄積したノウハウを後世に継承していきたい」「世の中の役に立ちたい」と語る声が多く聞かれます。

エグゼクティブを目指す方々に、JACが提供できる価値


転職とは、数ある選択肢のうちの一つに過ぎません。転職にはリスクがつきものですので、状況によっては、今の会社にとどまる方が望ましい場合もあります。

しかし、リスクとチャンスを天秤にかけたとき、「やりたいことをやるチャンスに賭けたい」という気持ちを強く抱いた場合、転職に踏み切るのも手です。

そのようなチャレンジに向かわれるとき、私たちはこれまでお手伝いしてきた転職事例の蓄積を踏まえ、成功がイメージできるケース、失敗しがちなケースなどの情報を提供いたします。

その情報をもとに、「今は現職にとどまる」と判断されてもいいと考えています。

JACは「転職ありき」ではなく、キャリアの節目・人生の節目でご相談いただける、長期にわたって伴走するパートナーです。

この記事の著者

重國 泰生

エグゼクティブディビジョン

2004年学習院大学経済学部卒業、同年JAC Japan(現JAC Recruitment)入社。 金融業界向け人材紹介コンサルティングを経験。銀行・証券・投資会社を中心に 業界専任コンサルタントとしてクライアントへの情報提供、採用支援を行う。
2011年からExecutive Division にて、CxOをはじめとした経営人材を担当し、クライアント・求職者の双方の成長を支援。

 

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