【動画解説付き】エグゼクティブ採用の背景 Vol.1「グローバル化」 日本企業の海外事業戦略に変化

一握りのビジネスパーソンしかなれないと考えられがちな「エグゼクティブ」。しかし、いつの時代も、その求人数が大きく減ることはありません。なぜエグゼクティブは常に求められているのか。――その背景にあるさまざまなトレンドをシリーズでお伝えします。

第1回のテーマは「グローバル化」。採用ニーズの背景にある「海外事業の進化」をはじめ、エグゼクティブとして活躍するために身に付けるべき要素を、動画と記事でお伝えします。

目 次

コロナ禍を経て、日本企業の海外事業が進化


コロナ禍の影響もあり、昨今、日本企業の海外事業のあり方が変化しています。大きく分けると、次の2つの傾向が見られます。

【1】「対・日本企業」から「対・現地企業/海外企業」へ販路を拡大

これまで日本企業を顧客としてその海外事業を支援していた企業が、顧客の海外事業の停滞を受け、現地企業や現地に進出しているアジア系企業・欧米系企業などに販路を拡大。「脱・日系依存」を図っています。
一例を挙げると、自動車メーカー・A社の海外展開にともなって海外進出した部品・素材サプライヤーなどが、A社だけに依存せず、日系B社・C社、さらには現地企業や、その国に進出している中国メーカー・韓国メーカーなどにも製品を提供する……といったようにです。
自動車メーカーから機械メーカーへ販路を広げるなど、新たな分野へ展開する動きもあります。

【2】「日本人駐在員によるマネジメント」から「現地人材によるマネジメント」へ転換

海外展開している企業では、コロナ禍により日本人駐在員が帰国を余儀なくされ、渡航制限で出張もままならなくなりました。
企業は現地の事業や組織が日本人に依存し過ぎていることに危機感を強めており、現地の経営の「自立化」を図っています。特に、小売・飲食・サービスなど、現地消費者を対象としたBtoC企業でこの動きが顕著です。

現地のトップをマネジメントするエグゼクティブのニーズが増加


「現地企業/海外企業」へ販路を拡大している企業の場合、ビジネスの折衝相手が日本企業から現地企業、その他の海外企業となるため、ナショナルスタッフ(現地人材)の活躍がいっそう望まれます。

「現地人材によるマネジメント」への転換に関しても、ナショナルスタッフに「拠点のマネジメント」という重要な役割を任せることになります。

そこで、日本本社側にも、日本にいながらにして現地を管理、指導、支援できる体制の強化が不可欠。 多くの場合、かつて海外拠点に赴任していた帰任者がその役割を担っていますが、それだけでは追い付かないケースもあります。そこで、現地企業のマネジメントができるエグゼクティブの採用に動いているのです。

現代のエグゼクティブ人材に求められる要素

このポジションを目指す方は、以下を意識してください。

  • 海外拠点でのマネジメント経験(日系企業での海外駐在経験3年以上が目安)
  • 多国籍・多文化組織でのマネジメント経験(外資系企業のグローバルプロジェクトなど)
  • 「事実」だけでなく「思い」を伝えるプレゼンテーション能力

現地での責務に堪え得るような高い能力を持つ外国人人材を惹き付け、責任と権限を委譲しつつ、高いパフォーマンスを引き出し、さらには日本本社と意思統一を行う――そんな現地トップに対するマネジメントを日本から行うためには、グローバル環境下でのマネジメント実績や高度な国際コミュニケーション能力が必要となります。

外国語力も高いレベルで必要とされますが、単に目標や方針を伝達するだけにとどまらず、経営者としての「自身の思い」を伝える表現力を磨くことが大切です。

「サーバント型」マネジメントの経験がある方は希少

従来の日本人駐在員のマネジメントスタイルは「トップダウン型」が多かったのですが、現地の自立化を図るには、「サーバント型」と呼ばれる「育成・支援型」のマネジメントスタイルが適していると言えます。

「ナショナルスタッフの中から有能な人物を見いだし、根気強く育成して徐々に権限を委譲した」――そのようなスタイルで現地化を成し遂げた経験を持つ人は、海外事業を担うエグゼクティブの採用選考において高く評価されます。

このほか、買収した海外企業の統合(PMI)や、海外の企業・研究機関などとの共同プロジェクトをマネジメントした経験などが、中途採用市場において価値を発揮します。

ダイバーシティ&インクルージョンの「正しい推進」が課題


経営において重要度が高まっているキーワードの一つに「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」があります。これは、人種や性別、世代のほか、宗教や価値観、性格、嗜好などの内面的な違いを相互に受容し、認め合い、生かしていくことを意味します。

メディアでは、女性活躍の指数化やLGBT対応を意識した諸規定の見直しなど、目に見えやすい取り組みが報じられています。その一方、現行のマネジメントチーム自体が多様性に乏しく、実運用面では何ら変化感がない……という企業も少なくありません。

D&Iを手段として理解し、活用する経営

問題は、D&Iが目的化しがちな点にあります。その真の目的は、人材の多様化によって得られた多様な視点を事業や組織の問題解決に役立てることであり、D&Iはその手段に過ぎません。

また、あからさまに「事業上のメリット」を目的としてD&IやSDGsへの施策を打ち出す企業では、従業員や顧客が早々に白けてしまい、変革が進まない傾向が見られます。

企業がD&Iに取り組むのは、それが「正しいこと」だからであり、新たな応募者を集めるためでも顧客を開拓するためでもありません。

こうした課題を認識している企業では、外部からエグゼクティブ人材を招き入れ、経営陣から多様化を促進するとともに、正しい視点で取り組みを推進したいと考えています。

この役割を担うエグゼクティブ人材は、次のような経験・スキルを身に付けていることが重要です。

  • 多様性ある組織のマネジメントを行う能力
  • 成果ベースのマネジメントで実績を上げられる力(ジョブ型制度下、リモート環境下でのマネジメント経験)
  • 人材採用のスキル(採用目的に対して適切な要件と判断基準を設け、選考でそれを判断する能力)
  • 「答を出す」のではなく「問いを立てる」能力
  • 自己の目標と成果を可視化し、自他のフェアな評価を受ける能力

Purposeから”Reason”へ


近年、次世代の経営モデルとして「Purpose(パーパス)経営」が注目を集めています。Purposeとは、企業の存在意義や志を意味します。

Purposeを基軸とし、環境や社会に貢献するビジネスを行っている企業を、その商品の購入という形でサポートする「エシカル消費」が増加。人材市場においても、マズローの「6段階欲求」説で最上位に置かれる「自己超越欲求」を満たす仕事や企業が求められる傾向が強くなっています。

一方、このPurposeによって真に社会の共感を得るためには、それが単に社会にとって良いことであるだけでは不十分。その企業や人がそのテーマに取り組む必然性――“Reason”が噛み合っていて初めて、他社には模倣できない自社独自の経営ストーリーとなります。

エグゼクティブとしてステークホルダー(従業員、株主、社会、顧客)の共感を得るために必要なのは、スキルよりもむしろ、その立場に立つまでに培った自身の“核”が明確であることといえます。

「この会社だからこそできる」「この会社にしかできない」と思わせるような、その人が生きてきた道のりがビジネスにつながっているストーリーが見えれば、多くの人の共鳴を得られるのではないでしょうか。

エグゼクティブを目指す皆さんは、自身の“Reason”に向き合い、明確化しておくことが大切です。

その上で、次の能力を磨くと良いでしょう。

  • 自社の特長(特徴)を俯瞰的、抽象的に捉えてストーリーとして表現する能力
  • 自身の経験値を第3者的に棚卸しし、言語化する能力と習慣

エグゼクティブを目指す方々に、JAC Recruitmentが提供できる価値


エグゼクティブへの道筋は多様です。自分の意志で起業する場合を除き、決して思ったとおりの道筋や時間軸でたどり着けるものではありません。 ときに偶然の機会、それも自身の意に反する職務や役割を担いながらも、目の前のことに懸命に取り組み、成果を出し続けた結果、「役員」というポストとなって結実するケースも多いものです。

しかしエグゼクティブを目指す方にとってはそこがゴールなのではなく、むしろスタート地点であるはずです。良いスタートを切るためには、適切な準備が必要と言えるでしょう。

JACはこれまで、エグゼクティブを目指すマネジメント層のキャリア構築支援、そして、グローバル企業でエグゼクティブポジションを担う人材のマッチングを手がけてきました。

その経験値をもとに、エグゼクティブとしての活躍を実現するための情報提供・アドバイスを行い、支援いたします。

この記事の著者

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佐原 賢治

海外進出支援室 室長

1990年同志社大学商学部卒業。2000年JAC Japan(現JAC Recruitment)入社。関東・関西・九州で主に日系製造業向け人材紹介コンサルティングを経験した後、本社人事部長職を経て2011年から現職。海外事業展開に伴う国内外での人材採用に対する助言を行なうほか、自治体、地方金融機関等主催イベントでの講演多数。日経産業新聞「HRマネジマントを考える」隔月連載中。

 

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